
MOTCHE!POTTERY
鶴岡市大山地区にある「陶 中村展示室」の陶芸教室を体験し、普段は見れない「釉掛け」と「陶芸窯」を見学させていただいたモッシェド編集部スタッフ。陶芸作家の中村知美さんの陶芸にかける想いをお聞きしました。
March 10, 2026
試行錯誤しながらも、なんとか自分が作りたい器のイメージどおりに成形することができました。
「でも、陶芸ってこれで終わりじゃないんです」
そう話すのは鶴岡市の大山地区で作家活動をしている、陶芸作家の中村知美さん。
陶芸教室で体験できるのは、一般的に成形から釉薬の色選びまで。その後の工程には「削り→乾燥→素焼き→釉掛け→本焼き」があります。
今回は、普段の陶芸教室では見ることができない「釉掛け」と実際に使用している「陶芸窯」を特別に見学させていただきました。

「成形後の工程からは私たちの手がどんどん加わっていくので、作った方とお話をして、最後に思い描いているものを聞いてから釉薬を塗ったり削ったりします。生徒さんが仕上げたいイメージに近づけるのが私の役割ですね」
成形後の削りの工程では、底を削ったり、角を削って全体の形と厚みを整えたりします。
底の粘土が厚すぎると手に持った時に重たく感じ、薄すぎても粘土の乾き具合いに影響が出ます。収縮の違いによって割れてしまうこともあり、器に入れたものが漏れる原因にも。そのため、器を均一な厚さに削って形を仕上げつつ、作り手のイメージに沿うように削っていきます。
そして、削り作業の後は乾燥と素焼きを終えて、「釉掛け」の工程になります。

「釉掛け」は主に素焼き後に行う工程ですが、釉掛けをする前にまずやすりでバリ(余分な突起)を取ります。この作業をすることで器の手触りを良くしたり、怪我の防止に繋がります。そして、器を置いたときにカタカタと揺れないよう、表面のざらざらとした角を滑らかにして、安定するように仕上げます。
表面が滑らかになったところで、釉薬を掛けます。以前4種類の釉薬から、ココナッツをイメージして選んだ「鉄黄釉」で色をつけていきます。



作品に使用している釉薬のすべては、中村さんご夫妻が自ら作っているオリジナルのもの。陶芸教室で使用している釉薬もその一部です。
釉薬作りも色々な素材を試しては、新たな発見を求めて楽しみながら作っているそう。たとえば、桜の木の皮を使った釉薬や貝殻で作った釉薬、薪ストーブの灰で作った釉薬、米もみの燻炭を釉薬など種類はさまざま。「燻炭だと透明で割とツヤ感がある感じで、色はグレーだけど釉薬にしたら黒でマットだったりとか。他にも灰にしたものを原料として使うから、ラ・フランスも黒やグレーだったりしますね」


作家によってオリジナルの釉薬が生まれるからこそ、陶芸にとって個性が出るのも釉薬の特徴です。
釉薬の色や種類は数多くありますが、その役割は装飾として器に華やかさを演出するだけではありません。焼成した器の表面を溶けた釉薬が、器で使用している土と一体となって、ガラス質のコーティングとなるため、器の強度が上がるのです。
そんな釉掛けが終わって、続いては最終工程の「本焼き」があります。


釉掛けが終わった器たちは、いよいよ窯で「本焼き」の工程に移ります。
「本焼き」では「素焼き」の700度よりも高い、1260度で20時間ほどかけて焼成し、2日間かけて冷まします。ものによってはそれ以上時間がかかるものもあるそうで、器を完全に取り出せるまでには、最低でも3日ほど必要となります。
中村さんご夫妻が使用しているのは、陶芸用電気窯といい、炎を使って焼く薪窯や灯油窯、ガス窯とは異なり、電熱線の熱を使って焼き上げる窯です。

とはいえ、窯の温度を急激に上げたり、まだ熱い作品を急速に冷ましたりすると、器が割れてしまうことがあるため、半日から数日かけてゆっくり丁寧に焼くのだそう。
成形した後はもう焼くだけだと思っていましたが、陶芸は想像していたよりもずっと長期戦。実際に私がやった場合、完成するまで待ちきれないのではないだろうかと感じました。

実際に私が体験した工程は成形と釉薬選びでしたが、随分と立派に出来上がりました!
ココナッツの皮特有のザラザラとした繊維感をイメージして、布でつけた荒い網目模様もしっかり出ています。基本的には、お皿などでよく使用されている模様づけの方法のため、マグカップや湯呑みなどの器には、あまり模様がつきにくいそう。確かに模様は付けにくかったのですが、全体的な形も縁の歪さもイメージ通り!
重さも思ったよりも軽く取っ手も持ちやすくできており、つるっとした手触りの部分もあれば、布の荒い網目のざらざらとした感触も感じられ、想像よりも良い割れたココナッツぽさを表現できたと思いました。


私にとっては数年ぶりの陶芸体験となった今企画。
粘土の感触に懐かしさを感じては苦戦したところもありましたが、知美さんとの会話と器作りを楽しみながら行う陶芸体験は、童心にかえったように心地が良かったです。また、日々の忙しさを忘れて自分の好きなことに没頭する時間は、大切なことなのだと感じました。「またここにきたい」そう思えるような、心が洗われるような体験となりました。

陶芸教室の体験を終えて、ご自身にとっての作品づくりと、陶芸教室への思いについて知美さんにお話をお聞きしました。
予備校時代に「土に触れて物を作る仕事がしたい」と思った知美さん。そこから、陶芸を学べる美大に入学し、陶芸の道へ歩みを進めました。粘土を用いて立体物を作っていくうちに、「陶芸」が自分のものづくりの感覚に合っていると感じたそうです。そして笠間焼で有名な茨城県笠間市に行き、「馬場陶房」の陶芸作家である馬場浩二さんの元に弟子入りしました。その後陶芸家を育成する窯業指導所(ようぎょうしどうしょ)で修行を積んだのち、都会の生活より山が見える生活を思い描いて、作家として独立しました。

「窯業指導所を卒業した後は、仕事で電動ろくろを使って1日に100~200個の器を作っていたのですが、同じ形のものをひたすら作っていくことは自分がやりたいこととは少し違うかなと感じて、独立後は手びねりで器を作っています。でも、夫は同じ形の器がずらりと作れたときに心地良さがあるみたいで、そこは作家性の違いかもしれないですね」
私が中村さんご夫妻の作品を拝見した時、見た目や形が違えど、見るものを飽きさせないオリジナリティに富んだその造形。そして似たような形であっても、その一つ一つに込めた思いが違っているから、それぞれの作品から伸び伸びとした「楽しさ」、個性のようなものを強く感じました。


知美さんのクリエイティブなインスピレーションの源は、日常の自然な出来事。
例えば、自身が子育て中に陶芸を中断して育児に専念していた際、子どもと石を拾ったり、葉っぱを拾ったりといった何気ない遊びや体験したことが、制作にも影響しているんだそうです。「子どもの感性や琴線に触れるものって、そこら辺にある自然のものなんです。大人になってからほとんど意識していなかったものに心が向き、作品にもつながっていきました」
作る前から具体的なイメージがあるというより、「手が導いてくれる」心の赴くまま、実際に手を動かしながらパッと思い浮かんだものをカタチにしていくのが知美さんのスタイル。
出来上がりをイメージしながら作ることもあるそうですが、それがうまく出るか出ないかは焼き物の特徴。たとえ思い通りにいかなかったとしても、かえって意図していなかった良さや発見を得れるのが、知美さんにとっての陶芸の魅力なのだとか。


しかし作家だからこその悩みもあり、「作品作りは思い通りにはいかない」と苦しんだことも。
窯を開けた時に想像からかなり外れているとショックだった、そんなときはご主人と一緒に『人生ってこの繰り返しだよね』と言いながら励ましあってきたそうです。
そして、今ではたとえ思い通りにいかなかったとしても失敗だとは思わず、それも味でいいなと。思い通りにいかなかったことも全部含めて良いのだと思えるように。お互いに作家であるからこそ高めあえ、大変さを感じても二人で乗り越えてきたと話す知美さん。そんなお二人だからこそ、作品から生き生きとした「意志」が感じられるのだろうと思いました。
そんな苦い経験があったこともあり知美さんが開く陶芸教室では、作品を作り上げるまでではなく、生徒さんには最後までこの場を楽しんでもらうことを大切にしているそうです。「最後は楽しいで終わりたいんです。ここに来た甲斐があったなって思える教室にしたいから、こういう自由なスタイルなのよね」


地元の方や遠方から来て陶芸教室に参加される方の中には、お母さんに連れられて3歳くらいのお子さんが作ることもあったり、80代のおばあさんと一緒に親子3代で参加される方、長年通われている方もおり、そんな方たちに楽しみながら気持ちよく陶芸をしてほしいという知美さんの思いがありました。
「焼き物ってやっぱり技術も必要だし釉掛けや焼成だったり、私たちがやることがほとんどなわけです。人によっては作るよりも買った方がいいとかっていう人も中にはいるんだけど、そうじゃなくて。技術がなくても技術を学ぶわけでもなんでもない。休みの日に自分の時間を「いい時間だったわ」って、そう思えるような場所として、初心者の方でも気軽に来てほしいなって思っています」

地元のお店や県外のお客様からも愛されている、中村さんご夫妻の作品。今後チャレンジして行きたいことや地域との関わりについてお聞きしました。
「行った先のお店だったり、オーダーいただいた地元の方が実際に使ってくださっているのを見ると、作家として『気に入ってもらえたんだ』という嬉しさがありますね」と知美さん。また、最近では自分たちよりも若い世代の方に陶器の良さを知ってもらえているという喜びもあると話してくれました。
割れにくい土を使うとどうしても味気ない仕上がりになってしまったり、商業的に流通している食器よりも欠けやすいなど繊細なところもありますが、そういったところも「手仕事の器の持ち味」として、受け入れてくださることに懐の深さを感じているそうです。


そして、以前はあまり注目されなかったオブジェの作品が、最近になってぜひ使いたいと評価されることがあり、手応えも感じていると言います。
「手ごたえが時間差で来ている感じがしますね。だから、ものづくりにおいて『うまくできなかった、ダメだった』なんて自分で決めちゃいけないんだと思います。ある程度の成功を求めると作家としてはそこで止まってしまうので、新たな答えを求めていくように、オリジナリティのある突き詰めた作品づくりをしていきたいです」
自分の作品づくりにどんどんチャレンジしていきたいというエネルギーに満ちた想いを話してくださった知美さん。
今回の陶芸体験と取材を通じて陶器の魅力をより深く知ることができ、「陶 中村展示室」がこれからどんな作品を手がけていくか、楽しみな気持ちがさらに膨らみました。





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