
MOTCHE!POTTERY
February 20, 2026
ふとした日常のなかで、「時間を忘れて好きなことに没頭したい」「自分の手で、なにかを作ってみたい」――そんな気持ちが湧いてくることはありませんか?
日々の忙しさに追われるなかで、“自分のための時間”を求めている人にとって、今回ご紹介する「陶芸」はちょっとした非日常を味わい、心を整える体験になるかもしれません。
不器用ながらも土と向き合い、想いを込めて作品を形にしていく過程を、笑いあり・苦戦ありでリアルにお届けします!
「日々の暮らしのなかに、こんなゆとりがあったらいいな」――そんな気持ちが芽生える記事になったらうれしいです。

仕事でもプライベートでも、新しくオープンしたお店や人気店のチェックは欠かせません。色々なお店を訪れるたびに、その店ならではのコンセプトを知り、また素材や製法へのこだわりに触れては、心がときめきます。
そんななかで気づいたのが、「素敵なお店は料理だけでなく、器にもこだわっている」ということ。

芸術家であり、料理にも造詣が深い北大路魯山人は「うつわは料理のきもの」という有名な言葉を残しています。
「器は料理を供すのに欠かせないものである。料理の味や香り、盛り付けなどを引き立てる。器は、料理の魅力を引き出し鮮やかに彩る服のようなものである。」
その言葉の通り、器には、洗練された雰囲気で料理を華やかに演出するものや、一見素朴ながらも確かな存在感で料理を引き立てるものなど、実にさまざまな魅力があります。似た形や色合いはあっても、世界に二つと同じものは存在しない。それこそが、手仕事ならではの贅沢な魅力なのです。

大量生産品とは異なる存在感を放つ一点ものの器。
見かけるたびに、「この器はどんな人が、どんな思いで作っているのだろう?」「この表情、楽しげでいいな」――そんなふうに、自然と陶芸への関心が高まっていきました。
わたしは子どものころから、手を動かしてなにかを作るのが大好きでした。小・中学生の頃は新聞紙や紙粘土で食品サンプルを作り、高校では石膏粘土や木材での造形や、キャンバスに立体的な絵を描く日々。専門学生になっても、ひたすら「何かを作ること」に夢中でした。
古代の遺物や美術品にも興味があり、観賞や収集に熱中していた時期もあります。しかし社会人になり、多忙な日々に追われるなかで、創作や好きなことに没頭する時間は次第に減ってしまいました。

陶芸への関心が高まるにつれ、「自分の手で、自分だけの何かを作りたい」という気持ちが再燃。気づけばノートに、作ってみたい器のイラストを夢中で描いていました。
描きながら、器の形や色のイメージ、「こんなときに使いたいな」というシチュエーションまで思い浮かびます。「これはもう、作るしかない!」と思い立ち、思い立ったらすぐ行動するタイプの私。「何事もまずやってみる」をモットーに、以前から気になっていた陶芸体験教室への参加を決めました。


鶴岡市大山、バス通り沿いの中村屋菓子店内にある「陶 中村展示室」。
ここは、陶芸作家・中村秀和さんと知美さんご夫妻のギャラリー兼お店です。
はじめて陶 中村展示室の器に出会ったのは、家族で訪れたレストラン。料理の美しさもさることながら、器の佇まいに心を奪われました。



淑やかでありながら、どんな料理にも自然になじむ造形と色合い。奥行きのある世界観、見ていても飽きない表現力。その魅力に惹かれたのを覚えています。何より、器の生き生きとした表情からは、お二人が楽しみながら作陶されている様子が伝わってきます。言葉ではうまく言い表せないけれど、釉薬の塗り方や形に独自の特徴があり、他の器と並んでいても「これは中村展示室の作品だ」とわかってしまうほど。
そんなお二人の作品作りに欠かせない工房は、ギャラリーとは別の場所にあり、そこにはまだ日を浴びぬ作品たちがずらり。



さまざまな形のお椀や花瓶、小鉢、お皿など。作品の中には試行錯誤をしている作品なども。普段は目にすることのできない景色に見惚れるほど、私の目には、どの作品もキラキラと輝いて見えました。

陶 中村展示室では、工房の一角を使用して時折「陶芸教室」が開かれているそう。
「あらかじめ決まった形のものを作るのではなくて、カップだったりお皿だったりと、それぞれ自分が作りたいものに取り組んでもらっています。だから、教室というよりも、ちょっと居心地の良い場所に来たと感じてもらえたらいいなと思っています」と話してくださったのは、今回ご指導いただく陶芸作家の中村知美さん。

コースは「手びねり」と「ロクロ」のどちらかが選べ、構想段階ではろくろでお皿を作ろうと考えていましたが、経験は小・中学生の頃に数回触れた程度。そのため、初めての方でも簡単にできるという「手びねり」で、マグカップを作ることにしました。
陶土には色々な種類の土がありますが、今回は初心者でも扱いやすい白土を使います。白土は一般的によく使われている陶土の1つで、どんな形でも成形しやすく、器や置物など、さまざまな用途で使われます。また、焼成前だとグレーがかった色味ですが、焼成後には白っぽくなるのが特徴です。


陶芸の主な工程としては「成形→削り→乾燥→素焼き→釉掛け→本焼き」の順に行われます。この体験でできる工程は、成形と釉薬選びです。
はじめに、成形前に陶土に空気が入らないようしっかりと練ります。空気が残っている状態だと、焼きの工程の際に陶土が膨張して爆発する可能性があるため、念入りに空気を押し出します。
いざ、考えていたものを作ろうと思ったものの、子供の頃は何も考えずに作りたいものを自由に作れていたのですが、今となっては形作りにすら悩みます。
そんな時「自由にやりましょう!」と言う知美さん。「見本や描いたものがあっても、形どおりに作るのは難しいです。そこを最初からやろうとすると苦しくなってしまうので、自由にやりましょう!」


知美さんに鼓舞され、会話を楽しみながら、さっそく成形前の土の質感を感じてみることに。
「どんな形にしようか」「どんなものをつくろうか」と想いながら土にふれると、土のつるっとしたなめらかさと特有のひんやりとした感触が、パン生地のようで、不思議と愛らしくみえ、自然と癒やされます。
そこからは、成形前のまるみを帯びた形から「手に馴染むようなモノを作りたい」と思い、想像したのはココナッツ。
マグカップを使用したときの用途として、お茶やスープだけでなくちょっとしたスイーツも盛り付けたいと考え、お椀のような形だけど、パカッと割れた時の、あの無骨でいびつなココナッツの質感をイメージして、マグカップを成形していきます。



粘土は乾燥や焼成で、サシの入った高級なお肉ぐらい縮むので、器の厚さはなるべく均一に。完成した器のサイズを想像しながら、ひとまわり大きく作るのがおすすめです。
また、私が作っているのはマグカップなので、土台の上に縁として形になるよう、粘土を重ねて高さを出していきます。繋ぎ目から割れないよう、指で滑らかにしながら整えます。最後はマグカップの取手を作るのみ。


しばらく形成を進めてある程度カップに高さと厚みができたところで、割れたココナッツの形になるよう、カップ全体を自分のイメージに合うよう歪ませます。上から見ると「ちょっと歪すぎたかな?」と思いつつも、理想としていた形に。「こんな形で大丈夫だろうか」、少し不安に思いながら形成と模様づけをしていた私。
「いいのよっ、これでいいのよ!それも石澤さんらしさなんだから」と知美さん。
「私も生徒さんがなにを求めているのかを想像しながら教えていますが、それぞれ作り方も作る作品も全然違いますよね。だから「これでいいのよ!」ってのびのび作ってもらうのが一番なのかなと思っています」


知美さんが開く陶芸教室では、生徒さんが伸び伸びと自由にできるよう、そして知美さん自身が参加者の方としっかりコミュニケーションを取りながら行っています。生徒さん自身が自分の手で求めるものを作れ、それを導けるよう少人数制で行っているのです。
そんな知美さんのサポートにより、最初は形成に苦戦しつつも次第に形づいていき、ついにマグカップが完成しました!
ココナッツの皮特有のザラザラとした繊維感を出すため、荒い網目の布でペタペタと模様をつけました。お皿などでよく使用されている模様づけの方法で、マグカップや湯呑みなどの器には、あまり模様がつきにくいそう。確かに模様は付けにくかったですが、なんとか思った通りに模様をつけることができ、形も納得のいくものができました。

そして工程も大詰め。最後はマグカップに合う「釉薬」選びです。
工房で使用している釉薬のほとんどは、中村さんご夫妻が自ら作っているオリジナルのものが多くあるそう。桜の木の皮を使った釉薬や貝殻で作った釉薬、薪ストーブの灰で作った釉薬、米もみの燻炭を釉薬など種類はさまざま。「燻炭だと透明で割とツヤ感がある感じで、色はグレーだけど釉薬にしたら黒でマットだったりとか。他にも灰にしたものを原料として使うから、ラ・フランスも黒やグレーだったりします」
陶芸体験で使用している釉薬もその一部で、種類は4つ。藁の灰から作られる雪のような白さが特色の「白萩」から、鉄を元にして作られた褐色が特徴の「鉄黄釉」。くすんだ黄色でラ・フランスの木の枝を灰にして作った「ラ・フランス」、酸化コバルトの深い紺色が美しい「瑠璃」。
今回は、割れたココナッツをイメージしたマグカップを作ったので、色が似ている焦茶色の「鉄黄釉」にしました。

釉薬選びも終わり、出来上がりを楽しみに待ちながら体験の方は終了です。
陶芸体験の内容はここまでになりますが、この後は「削り→乾燥→素焼き→釉掛け→本焼き」の工程があります。
普段は見られない「釉掛け」と「窯」を知美さんのご厚意で特別にお見せいただけることになりましたので、焼き上がった器とともにご紹介します!

「陶芸ってこれで終わりじゃないんです。ここから私たちの手がどんどん加わっていくので、作った方とお話をして、最後に思い描いているものを聞いてから釉薬を塗ったり削ったりします。私メインでやっちゃうと全然違くなるので、生徒さんが思うような感じを出すのが私の役割ですね」
自身にとっての作品づくりと、陶芸教室への思いについて話してくださる知美さん。
はじめはデザイナーを目指して美大に進んだ知美さん。しかし、粘土を用いて立体物を作っていくうちに、「陶芸」が自分のものづくりの感覚に合っていると感じたそうです。そして笠間焼で有名な茨城県笠間市に行き、陶芸家を育成する窯業指導所(ようぎょうしどうしょ)で修行を積んだのちに、作家として独立しました。


「窯業指導所を卒業した後は、仕事で電動ろくろを使って1日に100~200個の器を作っていたのですが、同じ形のものをひたすら作っていくことは自分がやりたいこととは少し違うかなと感じて、独立後は手びねりで器を作っています。でも、夫は同じ形の器がずらりと作れたときに心地良さがあるみたいで、そこは作家性の違いかもしれないですね」
私が中村さんご夫妻の作品を拝見した時、見た目や形が違えど、見るものを飽きさせないオリジナリティに富んだその造形。そして似たような形であっても、その一つ一つに込めた思いが違っているから、それぞれの作品から伸び伸びとした「楽しさ」、個性のようなものを強く感じました。


知美さんのクリエイティブなインスピレーションの源は、日常の自然な出来事。例えば、自身が子育て中に陶芸を中断して育児に専念していた際、子どもと石を拾ったり、葉っぱを拾ったりといった何気ない遊びや体験したことが、制作にも影響しているんだそうです。「子どもの感性や琴線に触れるものって、そこら辺にある自然のものなんです。大人になってからほとんど意識していなかったものに心が向き、作品にもつながっていきました」
’’手が導いてくれる’’。作る前から具体的なイメージがあるというより、実際に手を動かしながらパッと思い浮かんだものをカタチにしていくのが知美さんのスタイル。
出来上がりをイメージしながら作ることもあるそうですが、それがうまく出るか出ないかは焼き物の特徴。たとえ思い通りにいかなかったとしても、かえって意図していなかった良さや発見を得れるのが、知美さんにとっての陶芸の魅力なのだとか。

しかし作家だからこその悩みもあり、「作品作りは思い通りにはいかない」と苦しんだことも。
窯を開けた時に想像からかなり外れているとショックだった、そんなときはご主人と一緒に『人生ってこの繰り返しだよね』と言いながら励ましあってきました。
それも、今ではそれを失敗だとは思わず、それも味でいいなと。思い通りにいかなかったことも全部含めて良いのだと思えるように。お互いに作家であるからこそ高めあえ、大変さを感じても二人で乗り越えてきたと話す知美さん。そんなお二人だからこそ、作品から生き生きとした「意志(こころ)」が感じられるのだろうと思いました。


そんな苦い経験があったこともあり知美さんが開く陶芸教室では、作品を作り上げるまでではなく、生徒さんには最後までこの場を楽しんでもらうことを大切にしているそうです。
地元の方や遠方から来て参加される方。中には、お母さんに連れられて3歳くらいのお子さんが作ることもあったり、80代のおばあさんと一緒に親子3代で参加される方、長年通われている方もおり、そんな方たちに楽しみながら気持ちよく陶芸をしてほしいという知美さんの思いがありました。「最後は楽しいで終わりたいんです。ここに来た甲斐があったなって思える教室にしたいから、こういう自由なスタイルなのよね」。


「焼き物ってやっぱり技術も必要だし釉掛けや焼成だったり、私たちがやることがほとんどなわけです。人によっては作るよりも買った方がいいとかっていう人も中にはいるんだけど、そうじゃなくて。技術がなくても技術を学ぶわけでもなんでもない。休みの日に自分の時間を「いい時間だったわ」って、そう思えるような場所として、初心者の方でも気軽に来てほしいなって思っています」

知美さんに今後チャレンジして行きたいことや地域との関わりについてお聞きしました。
地元のお店や県外のお客様からも愛されている、中村さんご夫妻の作品。行った先のお店だったり、オーダーいただいた地元の方が実際に使ってくださっているのを見ると、作家として「気に入ってもらえたんだ」という嬉しさが。また、最近では自分たちよりも若い世代の方に陶器の良さを知ってもらえているという嬉しさもあったそうです。
割れにくい土を使うとどうしても味気ない仕上がりになってしまうので、商業的に流通している食器よりも欠けやすいなど繊細なところもあるそうですが、そういったところも「手仕事の器の持ち味」として、受け入れてくださることにすごく懐の深さを感じただけでなく、以前はあまり注目されなかったオブジェの作品が、最近になってぜひ使いたいと評価されることがあり、手応えも感じていました。

「手ごたえが時間差で来ている感じがしますね。だから、ものづくりにおいて『うまくできなかった、ダメだった』なんて自分で決めちゃいけないんだと思います。ある程度の成功を求めると作家としてはそこで止まってしまうので、新たな答えを求めていくように、オリジナリティのある突き詰めた作品づくりをしていきたいです」と、自分の作品づくりにどんどんチャレンジしていきたいという想いを話してくださいました。

私にとっては数年ぶりの陶芸体験となった今企画。
また来たいなと思える場所





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